- 投稿日:2025年08月30日
- 最終更新日:2025年09月17日
遺産分割協議から手続き完了まで|相続の3つのゴールを確実に達成する方法|アルファの相続

【監修】川井直樹
アルファ行政書士事務所 代表取締役CEO・行政書士
戸籍を集め、財産を調査し、相続人を確定した。ここまでの準備が整ったら、いよいよ相続手続きの核心部分である「遺産分割協議」に入ります。しかし、多くの方がここで立ち止まってしまいます。「どうやって話し合いを始めればいいのか」「誰から話を切り出すべきか」「もし揉めたらどうしよう」そんな不安を抱えながら、時間だけが過ぎていくケースを数多く見てきました。
実は、遺産分割協議がまとまった後も、まだゴールではありません。相続税申告、不動産の名義変更(相続登記)、金融機関の手続きという3つの重要なゴールが待っています。これらを10ヶ月以内に確実に完了させなければ、せっかくの協議も水の泡になってしまう可能性があります。
アルファの相続では、1,500件を超える案件を通じて、遺産分割協議から手続き完了まで、そしてその後のフォローアップまでを含めた総合的なノウハウを蓄積してきました。本記事では、その実践的な方法について詳しく解説します。
目次
遺産分割協議の進め方

協議を始める最適なタイミング
遺産分割協議のタイミングは、相続の成否を左右する極めて重要な要素です。早すぎても遅すぎても問題が生じます。
私たちの経験では、戸籍収集と財産調査が完了してから協議を始めるのがベストです。なぜなら、相続人が確定していない段階で話し合いを始めても、後から新たな相続人が発見されれば、全てやり直しになってしまうからです。また、財産の全容が分からない状態では、建設的な話し合いができません。
ただし、相続税が発生する場合は、10ヶ月という期限を考慮する必要があります。相続税申告が必要なケースでは、遅くとも亡くなってから6ヶ月以内には協議をまとめる必要があります。なぜなら、その後の申告書作成や納税準備にも時間がかかるからです。
感情的な準備も重要です。亡くなった直後は悲しみが深く、冷静な判断ができません。四十九日を過ぎ、ある程度心の整理がついた頃が、話し合いを始める良いタイミングとなることが多いです。
キーマンの特定と巻き込み戦略
相続には必ず「キーマン」が存在します。それも複数います。
まず、相談に来られる方。この方は家族から「お前がやってよ」と押し付けられた、いわば実務のキーマンです。ほぼ100%の確率で、相談に来る方はこの立場の人です。
次に重要なのが、「自我がありそうな人」です。これは最終的な意思決定に強い影響力を持つ人物で、この人を早い段階で見つけ、適切に巻き込むことが円満な相続の鍵となります。
例えば、こんなケースがありました。三人兄弟の長男が手続きを進めていて、次男は協力的でしたが、三男は最初から関わろうとしませんでした。しかし、最終段階の遺産分割協議になって、突然「なんで俺に相談なく進めてるんだ」と言い出したのです。それまでの努力が全て台無しになりかけました。
このような事態を防ぐため、キーマンは段階的に巻き込む必要があります。戸籍収集が完了した段階で「相続人はこのメンバーで確定しました」と報告。財産調査が進んだ段階で「財産の概要はこのようになっています」と共有。そして協議の前に「どのような分け方がよいと思いますか」と意見を聞く。
このように段階的に情報を共有することで、キーマンは「蚊帳の外に置かれていない」と感じ、協力的になります。
協議がまとまらない場合の現実的な対処法
残念ながら、どんなに準備をしても協議がまとまらないケースはあります。「ハンコを押さない」と言われてしまうこともあります。
まず試みるのは、もう一度、遺産分割の内容を見直すことです。なぜ納得していないのか、本音を聞き出す必要があります。表面的には財産の分け方に不満があるように見えても、実は過去のわだかまりや、手続きから外されたという疎外感が原因のこともあります。
それでも解決しない場合は、遺産分割調停という選択肢があります。これは裁判の前段階で、裁判所の調停委員が間に入って話し合いを進める制度です。第三者が入ることで、感情的な対立が緩和され、冷静な話し合いができることがあります。
ただし、調停に移行すると時間もコストもかかります。また、家族関係に深い傷を残す可能性もあります。そのため、できる限り話し合いで解決することが望ましいのです。
私たちの役割は、このような事態を未然に防ぐこと。1,500件の経験から、どこで揉めそうか、誰がキーマンか、どのタイミングで何を伝えるべきかを見極め、戦略的に進めることで、多くのケースで円満な解決を実現しています。
遺産分割協議書の作成

協議内容を正式な書面にする重要性
話し合いがまとまったら、その内容を遺産分割協議書という正式な書面にします。これは単なる記録ではなく、法的効力を持つ重要な書類です。
遺産分割協議書がなければ、不動産の名義変更も、預金の解約も、相続税の申告も進められません。金融機関や法務局は、この書類をもとに手続きを行うため、正確で完全な内容である必要があります。
必要な記載事項のチェックリスト
遺産分割協議書に記載すべき内容は以下の通りです。
被相続人の情報:氏名、生年月日、死亡日、最後の住所、本籍地を正確に記載します。
相続人の情報:全相続人の氏名、住所、被相続人との続柄を記載します。一人でも漏れがあると無効になります。
財産の特定と分割内容:誰が何を相続するか、具体的に記載します。不動産は登記簿謄本の記載通りに、預金は金融機関名と支店名まで正確に記載する必要があります。
特別な条項:例えば「後日新たな財産が発見された場合は、長男が取得する」といった取り決めがあれば記載します。
記載内容は専門的な知識が必要なため、多くの方が専門家に作成を依頼されます。特に不動産が含まれる場合は、登記に使用できる正確な記載が求められます。
実印と印鑑証明書の重要性
遺産分割協議書には、相続人全員の実印を押印し、印鑑証明書を添付する必要があります。
実印とは、市区町村に登録した印鑑のことです。認印や銀行印では効力がありません。印鑑証明書は、その実印が本人のものであることを証明する公的書類です。
よくあるトラブルとして、実印を持っていない相続人がいるケースがあります。特に若い世代は実印登録をしていないことが多いです。この場合、まず印鑑登録から始める必要があり、時間がかかります。
また、印鑑証明書には有効期限があります。多くの手続きでは「3ヶ月以内」のものを求められるため、あまり早く取得しすぎると使えなくなる可能性があります。
3つのゴールへの手続き

遺産分割協議書が完成したら、いよいよ最終段階です。相続手続きには主に3つのゴールがあります。これらは並行して進める必要があり、それぞれに期限や注意点があります。
ゴール1:相続税申告(10ヶ月期限)
相続税が発生する場合、最も重要なのが10ヶ月以内の申告と納税です。
まず、遺産分割協議の内容に基づいて、各相続人の相続税額を計算します。相続税は全体で計算した後、実際に相続した財産の割合に応じて按分されます。つまり、多く相続した人ほど税額も大きくなります。
相続税申告で特に注意が必要なのは、過去の贈与の取り扱いです。亡くなる前7年以内に行われた贈与は、相続財産に持ち戻して計算する必要があります。これを証明するため、過去5〜7年分の通帳の取引明細を提出することになります。
なぜこれほど詳しく調べるかというと、税務署は「お金の動き」に注目するからです。大きな出金があれば「これは何に使ったのか」と聞かれます。定期的な送金があれば「贈与ではないか」と疑われます。きちんと説明できる根拠資料を準備しておくことが重要です。
申告と同時に納税も必要です。相続税は原則として現金一括納付です。不動産ばかりで現金がない場合は、延納や物納という方法もありますが、条件が厳しく、事前の準備が必要です。
ゴール2:相続登記(不動産の名義変更)
不動産を相続した場合、相続登記という手続きが必要です。これは法務局で行う不動産の名義変更手続きです。
重要な点は、相続が発生しても自動的に名義は変わらないということです。亡くなったという情報が役所から法務局に流れて、勝手に変更されるわけではありません。相続人が自ら申請する必要があります。
相続登記に必要な書類は、遺産分割協議書、印鑑証明書、戸籍謄本一式、不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書などです。これらを揃えて法務局に申請します。
2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと過料が科される可能性があります。しかし、実務的には売却や担保設定をする際に必要になるため、早めに済ませることをお勧めします。
また、この機会に古い抵当権の抹消も同時に行うことが多いです。既に完済している住宅ローンの抵当権が残っていることがよくあり、これも一緒に処理します。
ゴール3:金融機関手続き(預金解約と証券口座移管)
最後のゴールは、金融機関での手続きです。これは預金の解約と証券口座の移管に分かれます。
預金の解約について重要なのは、亡くなった方の名義の口座は「名義変更」ができないということです。相続人の名前に変更することはできません。必ず一度解約して、相続人の口座に振り込むという手続きになります。
各金融機関に遺産分割協議書、戸籍謄本、印鑑証明書などを提出し、解約手続きを行います。銀行によって必要書類や手続きが異なるため、事前に確認が必要です。また、窓口でしか手続きできない銀行も多く、時間がかかることを覚悟しておく必要があります。
証券口座の移管は、預金とは異なる手続きです。株式や投資信託は解約するのではなく、相続人の証券口座に移管します。
ここで問題になるのは、相続人が同じ証券会社の口座を持っていない場合です。まず相続人が口座を開設する必要があり、これに時間がかかります。口座開設後、株式等を移管し、その後は相続人の判断で売却するか保有を継続するか決められます。
これら3つのゴールは、相続の規模や内容によって優先順位が変わります。相続税が発生する場合は税務申告が最優先、不動産を売却する予定なら相続登記を急ぐ、生活資金が必要なら預金解約を優先するなど、状況に応じた判断が必要です。
手続き完了後のフォローアップ

多くの方は、相続手続きが完了すれば全て終わりと思われています。しかし、実はここからが本当に重要な時期なのです。
次の相続に備える生命保険の活用
今回の相続で学んだ最も重要な教訓は何でしょうか。多くの方が「もっと早く準備しておけばよかった」とおっしゃいます。
例えば、今回お父様が亡くなり、お母様が財産の大部分を相続したケースを考えてみましょう。将来お母様が亡くなった時、お父様の分も合わせた財産が子供たちに相続されることになります。つまり、二次相続では相続税が大幅に増える可能性があるのです。
ここで有効なのが生命保険の活用です。相続税の計算において、生命保険金は「相続人の人数×500万円」まで非課税になります。例えば相続人が3人いれば、1,500万円まで非課税です。
現金で500万円持っていれば、その500万円に対して相続税がかかります。しかし、その500万円を保険料として支払い、死亡保険金として受け取れば、税金がかからないのです。受け取る金額は同じでも、税金が大きく変わります。
ただし、保険に加入するには健康状態や年齢の制限があります。元気なうちに加入しておくことが重要です。
このように専門家が相続の他にも保険などの知識を持っていることでさまざまな提案ができます。
遺言書作成の必要性
「今回、遺言書がなくて大変だったね」これも、相続を経験された方からよく聞く言葉です。
遺言書があれば、遺産分割協議という最も大変なプロセスを省略できます。相続人全員の合意を得る必要がなく、遺言書の内容に従って手続きを進められます。
特に以下のような場合は、遺言書の作成を強くお勧めします。子供がいない夫婦(配偶者と兄弟姉妹が相続人になるケース)、再婚して前婚の子供がいる場合、特定の相続人に多く残したい場合、相続人同士の仲が良くない場合。
遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、確実性を求めるなら公正証書遺言がお勧めです。費用はかかりますが、無効になるリスクが極めて低く、紛失の心配もありません。
生前整理という新しい選択肢
相続を経験すると、「自分の時は子供たちに迷惑をかけたくない」と考える方が増えています。そこで注目されているのが生前整理です。
財産面では、不要な不動産の処分が重要です。使っていない土地や建物は、相続人にとって負担になることがあります。生前に処分しておけば、相続手続きも簡素化されます。
また、預金口座の整理も有効です。使っていない口座は解約し、メインバンクに集約することで、相続人の手続きが楽になります。
物の整理も大切です。思い出の品と不用品を分け、大切なものには説明を添えておく。デジタル遺産(パソコンやスマートフォンの中身)の整理も忘れずに。
さらに、相続税対策として不動産への組み替えを検討することもあります。現金で持っているより不動産で持っていた方が、相続税評価額が低くなる傾向があるからです。ただし、これは「相続税を減らす」ことだけを考えた場合の話です。
実は、生前に時間をかけて売却した方が、トータルで見て有利なケースも多いのです。相続後に急いで売却すると、買い叩かれることがあります。生前なら、じっくりと良い条件で売却できます。
継続的な関係の価値
相続手続きを通じて、私たちは3ヶ月から半年という期間、お客様と密接に関わります。その間に、家族関係、財産状況、将来の不安など、親族以外では最もお客様のことを知る存在になります。
この関係性は、手続き完了で終わるものではありません。むしろ、ここからが本当のパートナーシップの始まりです。
実際、多くのお客様から手続き完了後もご相談をいただきます。「実家を売却したいが、どうすればいいか」「新たに財産が見つかったが、どう処理すべきか」「自分の相続対策を始めたい」など、様々なご相談があります。
また、重い腰を上げて相続手続きを始めたこのタイミングで、次の対策も一緒に考えることは、お客様にとって大きなメリットがあります。専門家との関係ができている今なら、スムーズに次のステップに進めます。

まとめ:3つのゴールとその先を見据えて

相続手続きは、遺産分割協議の成立がゴールではありません。その後に待つ3つのゴール、つまり相続税申告、相続登記、金融機関手続きを確実に完了させることが重要です。
成功のポイントをまとめると、遺産分割協議では戦略的なアプローチが不可欠です。キーマンを早期に特定し、段階的に巻き込む。全員が納得できる着地点を見つける。専門家の力を借りて、感情的な対立を避ける。
3つのゴールは並行して進めることが重要です。相続税申告は10ヶ月の期限を厳守。相続登記は3年以内だが、早めの対応が望ましい。金融機関手続きは、各機関の要求に応じて柔軟に対応。
そして手続き完了後も視野を広げることです。二次相続対策として生命保険を活用。遺言書作成で次世代の負担を軽減。生前整理で相続をシンプルに。
これらは全て、1,500件を超える実践から得られた知恵です。相続は単なる手続きではなく、家族の歴史を引き継ぎ、未来へつなぐ大切なプロセスです。だからこそ、目先のゴールだけでなく、その先まで見据えた総合的なアプローチが必要なのです。
相続の全プロセスをサポートするアルファの相続

相続手続きは、様々な専門知識と経験が求められる複雑なプロセスです。遺産分割協議の進め方、各種手続きの期限管理、次の相続への備えなど、考えるべきことは山積みです。
アルファの相続では、初回の相談から手続き完了後のフォローアップまで、一貫してサポートいたします。単なる手続き代行ではなく、お客様の状況を深く理解し、最適な戦略を立案。家族全員が納得できる円満な相続を実現します。
特に、相続税が発生する場合や、不動産が複数ある場合、相続人間の関係に不安がある場合などは、専門家のサポートが不可欠です。手続きの途中で行き詰まってしまう前に、早めのご相談をお勧めします。
また、手続き完了後も末永くお付き合いさせていただき、次の世代への備えもサポートいたします。生命保険の活用、遺言書の作成、生前整理など、今だからこそできる対策を一緒に考えていきましょう。
相続でお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。初回相談は無料で承っております。1,500件の経験と専門知識で、確実な手続きと安心の未来をお約束いたします。
初回相談は無料で承っております。相続に関してのご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。経験豊富な専門家が、あなたの状況に応じた最適なアドバイスをご提供いたします。
監修者

川井直樹
ALPHAGROUP 代表取締役CEO・行政書士
在学中に行政書士資格を取得。国内トップクラスの企業グループでの相続業務経験を経て、ALPHAGROUPを創業。
江東区に事務所を構え、「相続・終活」に特化したサービスを展開。依頼者に寄り添った、安心できる相続手続きをサポートしています。